博士論文公聴会 (D3 三部良太,7月4日)

小林研D3の三部さんの博士論文公聴会が下記の日程で実施されます.

題 目:リエンジニアリングにおける既存システム情報の効率的な活用の研究
発表者:三部良太 (東京工業大学 大学院情報理工学研究科 計算工学専攻)
日 時:2018年7月4日 16:50-18:20
会 場:大岡山キャンパス 西8号館東棟10F 情報工学系会議室

概 要:

本論文は,「リエンジニアリングにおける既存システム情報の効率的な活用の研究」と題し,以下の7章よりなる.
第1章「序論」では,本論文の背景を説明している.企業において70%以上の業務が既にシステム化されている.このため,システム開発の際には既存システムの仕様を考慮し,これに新たな要求を組み入れる必要があり,既存システムの実態調査と,新仕様に反映させるために新要求を正確に獲得することに多くの手間がかかっていた.本論文では,既存エンタープライズシステムの再構築を行う際の仕様復元と,新仕様の定義を効率的に行う手法を提案したことを述べている.
第2章「エンタープライズシステムのリエンジニアリングにおける課題」では,第1章で述べた課題を詳しく述べている.第1章で述べた課題を解決する技術分野としてリエンジニアリングがあり,既存システムから処理仕様の復元を可能としている.しかし,処理レベルの仕様は仕様の詳細検討の段階で活用できるが,ユーザとの仕様定義で活用するには内容が細かすぎるため,業務レベルへの抽象化が必要であることを述べている.また,復元した仕様にユーザの要求を組み入れて新仕様を定義する部分は,ユーザとの合意に手間がかかること,検討漏れやあいまいな決定が,開発後半の大きな手戻りにつながることを述べている.
第3章「本研究のアプローチ」では,第2章で述べた課題を解決するためのアプローチを述べている.仕様復元では,正確なドキュメントが残っていないシステムの業務仕様を復元することにコストがかかることが課題がある.これを解決するために,既存システムのログと組織情報を用いて仕様復元するアプローチをとることを述べている.新仕様定義では,漠然としたユーザの要求を業務仕様に定義し合意をとるのに手間がかかる課題がある.これを解決するために,復元した仕様に基づいてプロトタイプを生成し,このプロトタイプを用いてユーザと開発者の仕様確認を繰り返すことで,プロトタイプを構築する労力を削減し,ユーザとの合意を効率的に行うアプローチをとることを述べている.
第4章「システムログと組織情報を活用した業務フロー仕様復元」では,第3章で述べた仕様復元の課題を解決する手法の詳細を述べている.正確なドキュメントが残されていない既存のシステムを理解するために,システムログと組織情報から業務フローを復元する手法を提案している.本手法は,複数のユーザによって行われる業務に対し,一つの事務手続きなどの業務対象にアクセスするユーザが切り替わるポイントに着目することによって,ユーザの業務上の役割(ロール)と代表的なアクションを抽出し,抽象化されたアクティビティを復元することができる.ケーススタディによる評価で,ロール復元精度が99.5%,抽象化アクティビティの再現率が99.2%という高い精度で業務フローを復元できていることを示している.
第5章「Webアプリケーションのユースケース駆動プロトタイプによる要求獲得方法」では,第3章で述べた新仕様定義の課題を解決する手法の詳細を述べている.本方式では,ユースケースシナリオとプロトタイピングを組み合わせた要求獲得方式を提案している.ユースケースの典型的なシナリオをパターン化した「シナリオパターン」,シナリオパターンの画面実装方法をパターン化した「画面パターン」を用いて,開発者がユースケースシナリオを組み立て,このシナリオからプロトタイプを生成する.このプロトタイプを用いて開発者とユーザが仕様を確認することを繰り返すにより,両者の新仕様への共通理解が可能になる.プロジェクト管理システムの開発で適用実験を行い,従来手法より3割多くのユーザの指摘を得られ,後工程に持ち越すと修正範囲の影響の大きい指摘を前もって得ることができることを示している.
第6章「仕様復元とプロトタイプ生成の関係」では,第4章で述べた仕様復元技術と,第5章で述べたプロトタイプ生成技術を組合せることにより,全体として第2章で示した課題を解決することを述べている.仕様復元技術で復元した仕様(業務フロー図,業務機能階層図)をインプットとしてプロトタイプ生成を行うことにより,開発者のユーザとの仕様確認作業を効率的に行うことができる.これにより,既存システムから,現行ユースケースを抽出することで踏襲すべき仕様を明確にし,これに新たな要求を加えた新ユースケースをカスタマイズしてユーザに提示し,そのフィードバックを早期に得ることが可能になることを示している.
第7章「結論」では,本研究で得られた成果を要約し,今後の課題を述べている.本論文では,エンタープライズシステム開発の再構築の際の2つの課題を解決する手法を提案し実現した.これにより,既存システムから現状の仕様が復元でき,仕様から生成したプロトタイプを用いてユーザと開発者が新仕様を早期に合意をとることができるという優れた解決法であると結論づけている.