[論文発表] 改版履歴の分析に基づく変更支援手法における 時間的近接性の考慮と同一作業コミットの統合による影響

小林研修士2年の森さんと,スウェーデン王立工科大学からの交換留学生 Hagwardさん,小林准教授らの,プログラムに対する変更箇所を予測する手法に関する論文が,情報処理学会論文誌に採択されることが決まりました.

Firefox や Gccなどの大規模OSSを含む6つのプロジェクトを対象に大規模な実験を行い,「ソフトウェア進化に伴いファイル間の依存関係は変化するか?」, 「時間的近接性の考慮により推薦性能は向上するか?」, 「同一作業コミットの統合により推薦性能は向上するか?」という点を調査し,過去の改版履歴をすべて用いるのではなく,最近のコミットだけを利用しても同等以上の推薦制度が出ることを明らかにしたものです.
本論文は,筆頭著者の森さんの卒業論文がベースになっています.

概要:

改版履歴の分析によってファイルの共変更ルールを抽出し,必要な変更箇所を推薦することで開発者への支援を行う研究が進められている.既存手法による推薦は正確であるが,多くの場合に変更漏れを推薦できないという問題点がある.本研究ではより多くの変更漏れを開発者に推薦するため,改版履歴を分析して共変更ルールを抽出する上で考慮すべき2 つの特性に着目した.1 つは時間的近接性である.ソフトウェアの進化に伴いソフトウェアの依存関係は変化するため,そこから得られる共変更ルールも変化しうる.全コミットではなく最近のコミットのみを分析の対象とすることで,共変更ルールの質の向上が期待できる.もう1 つは同一作業コミットの統合である.同一作業に関するコミットを統合することで,コミットの粒度が統一され,共変更ルールの質向上に繋がると考える.我々は,この2 つの特性が共変更ルールの質にどのような影響を及ぼすかを調査した.代表的なOSS を用いた評価実験により,共変更ルールが時間とともに変化すること,および,時間的近接性の考慮によってより多くの変更漏れを推薦できることを明らかにした.特にEclipse においては,Recall が最大で0.11 から0.28 まで上昇した.また,同一作業コミットを統合することが,推薦性能の向上に有益であることを明らかにした.

著者:森達也, Anders Hagward, 小林隆志
題目:改版履歴の分析に基づく変更支援手法における
時間的近接性の考慮と同一作業コミットの統合による影響
掲載予定誌:情報処理学会 論文誌 Vol.58 No.4 (Apr. 2017)